動き出した所有者不明土地対策

      2018/07/04

6月6日に『所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法』が参議院で成立しました。

これにより、所有者不明の土地が、都道府県知事の判断で最長10年間の「利用権」を設定したうえ、公園や仮設道路、文化施設など公益目的で利用できるようになります。

ただ、所有者不明土地の面積は、現在、九州本土(約367万ha)よりも広い約410万haが存在し、このまま何らの対策をとらないとすると、2040年には北海道の面積(約780万ha)にせまる約720万haに拡大すると推計されています。

そこで今回は、所有者不明土地が発生する背景・原因と特別措置法の内容を確認していきます。

1. 所有者不明土地とは?

不動産登記簿等の公募情報等により調査しても、なお所有者が判明しない、又は判明しても連絡がつかない土地のことをいいます。(※ 所有者が誰もいないというわけではありません。)

所有者不明土地が増加した背景

人口減少や高齢化による土地利用のニーズの低下、さらに地方から都市への人口流出を背景とした土地の所有意識の希薄化等により、主に相続が発生した際に相続登記をせずに、その後更に相続が発生するなどして、所有者が不明となる土地が全国的に増加しました。今後も、相続機会の増加に伴って、所有者不明土地は増加の一途をたどることが見込まれています。

この問題は、2011年の東日本大震災後の広域にわたる市街地復興事業で、登記簿等の公募情報に基づき土地所有者に連絡したところ、連絡が取れないケースが多発したことにより特にクローズアップされました。

所有者不明土地は、所有者の特定に多大なコストがかかるため、公共事業の推進等の場面で、その用地確保の妨げになり、事業の遅れの一因となっています。

これを放置すれば、経済発展の妨げになるばかりでなく、地域の防災・治安・地域コミュニティに影響を及ばすといわれています。

2. 所有者不明土地の経済的損失が6兆円!?

経済的損失
1. 所有者不明土地を利活用する場合のコスト・損失 (1)探索コスト    約500億円
(2)機会損失 約22,000億円
2. 恒常的に発生するコスト・損失 (3)管理不行き届きによるコスト 約36,000億円
(4)固定資産税の滞納    約600億円
合  計 約59,100億円(約6兆円)

※経済的損失は2017年~2040年の累積。

(1)探索コストとは、所有者不明土地を公共事業用地として使う場合に、自治体職員が所有者を探すためのコストですが、他の政策課題も多い中、不明所有者(相続人)調査にのみ時間を掛けられないという事情があります。

(2)機会損失とは、その土地をすぐに利用できたなら、生み出せたはずの経済的利益・便益の損失です。

(3)管理不行き届きによるコストとは、放置された土地が周辺に悪影響を及ぼした場合(鳥獣の被害、治安の悪化、災害の発生等)の対策費用のことですが、本来これは管理責任を負う所有者が負担すべき費用を、地域住民の税金で賄うということになります。

(4)固定資産税の滞納については、その額よりも自治体の徴収実務(納税者の探索等)にかかるコストの方がはるかに大きいことから、徴収の機会が失われ、ゆえに税の公平性が失われることになります。

所有者不明土地がもたらす経済損失が約6兆円といわれてもピンときませんが、これだけの数字を出すということは政府も本腰でこの問題に取り組もうとしている証といえるでしょう。

3. なぜ所有者不明土地が増えるのか?

  • 相続が発生したときに相続登記を行わないのが一番の要因・・・土地をわざわざ相続したいと思うだけの土地に対する価値意識がなくなった、昔のような土地神話がなくなった。
  • 農地・・・後継者がいない。
  • 森林・・・整備コストを回収できるだけの収入が、民有林では得られない。

相続登記

日本では相続登記は義務ではありません。登記は対抗要件とされています。

対抗要件とは、他人(第三者)に対して土地の所有権を主張(対抗)するためには登記をしておかなければならないということです。相続する方、される方といった当事者間では、わざわざ登記をしなくても自動的に所有権は移転しています。

だから、相続が発生しても、よっぽど土地に価値があったり、建物を建て替えるためにローンを組むときなど以外には登記を行わなくなっているのです。あとは、遺産相続に紛争があって登記が放置されるケースもあります。

そうこうするうちに、相続した人にさらに相続が発生すると、さらに相続人が増え、誰が所有者で持分がどれだけあるのか分からなくなって、相続人(所有者)探索に大きな労力と費用がかかってくるわけです。

いっぽう、ドイツでは登記は効力要件となっています。ということは、登記をしなければ所有権を取得できないので、いわば登記は義務的なものといえます。

そこで、日本もこれだけ所有者不明土地が増える(2040年までに720万ha)ならば、相続登記を義務化するべきではないかとの議論が起こってくるわけです。

4. 所有者不明土地問題の解決へ向けた提言(全体像)

目指す社会像 必要な施策
所有者不明土地を円滑に利活用、適切に管理できる社会 

今回の特別措置法で実施

利活用・管理に係る制度の見直し・創設。所有者探索の円滑化。
各種制度等の円滑な活用のための環境整備
所有者不明土地を増加させない社会

2020年までに具体化予定

所有権移転の確実な捕捉
空き地・空き家、遊休農地、放置森林の利活用
土地所有者の責務の明確化、所有権を手放すことができる仕組みと受け皿の設置
全ての土地について、真の所有者が分かる社会

2020年までに具体化予定

「土地基本情報総合基盤(仮称)」の構築、活用
現代版「検地」を実施し、すべての所有者等の確定

このうちの①②が今回の「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」によって実現することになりました。

5. 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の中身

(1)所有者不明土地を円滑に利用する仕組み

反対する権利者がおらず、建築物(簡易な構造で小規模なものを除く。)がなく、現に利用されていない所有者不明土地について、以下の仕組みを構築。

公共事業における収用手続の合理化・円滑化(所有権の取得) ○ 国、都道府県知事が事業認定した事業について、収用委員会に代わり都道府県知事が裁定
地域福利増進事業(*1)の創設(利用権の設定) ○ 都道府県知事が公益性等を確認、一定期間の広告
○ 市区町村の意見を聴いたうえで、都道府県知事が利用権(上限10年間)を設定・・・(所有者が現れ、明渡しを求めた場合は、期間終了後に現状回復。異議がない場合は延長可能。)

(*1)地域福利増進事業は、

  • 公共事業のうち、地域住民の福祉又は利便の増進に資する事業で原状回復が可能なものを対象とする。(例:公園、緑地、広場、駐車場等)
  • 公共事業には当たらないが、地域住民等の福祉又は利便の増進に資する施設(収益性がある者を含む)で、周辺で不足しているものを対象とする。(例:購買施設、文化教養施設等)

を想定している。

(2)所有者の探索を合理化する仕組み

所有者の探索において、原則として登記簿、住民票、戸籍など客観性の高い公的書類を調査することなどの合理化を実施。

土地等の権利者関連情報の利用及び提供 ○ 土地の所有者の探索のために必要な公的情報(固定資産課税台帳、地籍調査票等)について、行政機関が利用できる制度を創設
長期相続登記未了土地にかかる不動産登記法の特例 ○ 長期間、相続登記等がされていない土地について、登記官が、長期相続登記等未了土地である旨等を登記簿に記録すること等ができる制度を創設

(3)所有者不明土地を適切に管理する仕組み

財産管理制度に係る民法の特例 ○ 所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長等が家庭裁判所に対し財産管理人の選任等を請求可能にする制度を創設

6. 2020年までの制度改正を目指している施策

  • 相続を登記に反映させる仕組み
  • 土地所有権を手放せる仕組み
  • 土地の管理など所有者の責務を位置づけ
  • 地積調査の促進
  • 戸籍と登記の連携システムの整備

これらの制度を2020年までに具体化しようというのですから、相当緊急性が高い課題であると政府は捉えているようです。

憲法29条は個人の財産について、以下のように定めています。

第29条 財産権

① 財産権は、これを侵してはならない。

② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

一方、憲法12条は個人の権利について、以下のような制約を課しています。

第12条 自由及び権利の保持の責任と濫用の禁止

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

所有者不明土地問題は、個人の財産である土地に国や自治体がどこまで関与できるのかの問題につながります。これからは、「所有権絶対の原則」がある一方、登記をせずに土地の管理を怠る所有者を「公共の福祉に反し、権利を濫用する者」とみなして施策を進めていくようです。

土地という資産を所有しているなら、それなりの義務・責任を果たしてもらって、所有者不明土地を増やさないようにしようということでしょうね。…END

引用資料

国交省「所有者不明土地の円滑化等に関する特別措置法案」を閣議決定

「所有者不明土地問題研究会 最終報告概要」

国交省「所有者不明土地に関する取組みについて」

 

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