国交省『外部専門家の活用ガイドライン』の概略(3・終)

      2017/10/10

前回に続いて、国土交通省の「外部専門家の活用ガイドライン」の概略を以下の構成に沿ってご紹介したいと思います。

「外部専門家の活用ガイドライン」は、

主に外部専門家を理事長・管理者に選任する場合の実務的な留意点や運用例をまとめたもので、

導入までの手続きフローや利益相反等のトラブル防止措置と事故が起こった場合に取るべき対応例などを示しています。

 

LINK  国土交通省「外部専門家の活用ガイドライン

 

目次

☆ ガイドラインの構成

1.  ガイドラインの目的 (1)ガイドライン制定の目的
(2)ガイドラインの対象
2.  外部専門家専任の進め方について (1)外部専門家の活用のニーズの見極め
(2)外部専門家役員の導入までの進め方・手続き
3.  候補者の選定について (1)候補者の情報収集・選定プロセス
4.  外部専門家の業務内容・契約書等 (1)契約・細則等
5.  外部専門家の適正な業務遂行の担保・組合財産の保護のための措置 (1)外部専門家による独断専横的行為・利益相反等の防止
(2)多額の金銭自己・事件の防止
(3)事故・事件が起きてしまった場合の組合財産の保護措置
資料編 外部専門家と管理組合の契約書の例

 

5.  外部専門家の適正な業務遂行の担保・組合財産の保護のための措置

  • 外部専門家による管理組合財産の損害を未然に防ぐための措置(未然防止
  • 事故・事件により管理組合財産に損害が発生した場合の保護措置(発生後の保護措置

として、以下の表のように整理されています。

トラブルの対応の     方向性 具体的な措置の例
未然防止 (1) 外部専門家による独断専横的行為・利益相反等の防止 ① 外部専門家に対する監視・チェック体制 1)  理事会等での定期書面報告(チェック)

2) 監事による監視

3) 外部監査、派遣元団体による内部監査等

② 外部専門家の権限の制限 1) 外部専門家への議決権の非付与

2) 代表権の制限

3) 一定額以上の支出を伴う契約行為の厳格化

③ 解任を可能としておくための措置 1) 管理規約条文における管理者〔理事長〕名等の固有名詞の排除

2) 解任に向けた総会の招集要件の緩和

3) 区分所有者名簿等へのアクセスの確保

④ 利益相反等管理組合の利益を損なう行為への対応 1) 工事等の発注における業者選定等の透明性確保

2) 外部専門家と管理組合の利益が相反する取引の制限

3) 管理組合からの報酬以外のリベート等の収受禁止

(2) 多額の金銭事故・事件の防止 ① 口座の適切な管理 1) 財産の分別管理の徹底

2) 通帳・印鑑等の保管体制(派遣元等による銀行印保管、理事長印と銀行印の分離、キャッシュカードの作成禁止等)

3) 修繕積立金の積立方式の工夫(複数の役員の確認がなければ現金化できない方式等)

②出納業務の不実施 1) 出納業務の対象外化

2) 現金の取扱いの禁止

③ 適切な財産管理状況の把握 1) 監事等による組合財産状況に関する理事会・総会への定期報告義務

2) 通帳原本等の定期的な確認

発生後の保護措置 (3) 事故・事件が起きてしまった場合の組合財産の保護措置 ① 保険・補償制度の活用 1) 過失による損害(専門職業人賠償責任保険等)

2) 故意・重過失等による損害(派遣元の補償、資格者団体による保険等)

② 紛争解決手続の活用 1) 外部専門家である管理者(理事長)を被告とする場合の訴訟手続の例示

2) 裁判以外の解決手法(資格者団体による懲戒制度等)

 

〔外部専門家による管理組合財産の損害を未然に防ぐための措置(未然防止)〕

(1) 外部専門家による独断専横的行為・利益相反等の防止

① 外部専門家に対する監視・チェック体制

1)  理事会等での定期書面報告(チェック)

外部専門家が役員、特に管理者に就任する場合、全ての意思決定を任せるのではなく、理事会や総会による業務執行状況の監視・チェック機能を担保する必要がある。

これを担保するため、書面による定期的な報告を外部専門家に義務付けておくことが必要である。

2) 監事による監視

区分所有者の中から監事を選定しておき、役員に就任した外部専門家の業務執行状況を監視することは、監視・チェック体制の確保の面から有効である。

監事は、可能な限り区分所有者から選任することが望ましいものの、

区分所有者から選任が困難な場合、又は複合用途など管理の難易度の高いマンションにおいては、監査業務の事務負担が大きく、かつより高度な知見を必要とする場合もあり、

複数の監事を設置し、区分所有者と専門家(マンション管理士、税理士等)から選任することも考えられる。

3) 外部監査、派遣元団体による内部監査等

監事を区分所有者から選任できない場合や、理事会を設置しない管理組合においては、機動的な監視・チェック体制を確保するため、外部機関による外部監査を行う例もある。

法人・団体等から専門家の派遣を受ける場合、業務委託契約において、専門家に対する派遣元の法人・団体による内部監査や報告徴収を行うことを義務付けておくことも考えられる。

② 外部専門家の権限の制限

1) 外部専門家への議決権の非付与

理事会の議決権については、管理組合(区分所有者)としての主体性を確保する観点から、管理規約において、区分所有者以外の役員が議決権を持たないとする規定を設けることも考えられる。

2) 代表権の制限

総会の議決権の代理行使については、議決権行使書によるほか、代理人への委任による方法が広く行われているが、

標準管理規約では、代理人の範囲は当該組合員の親族や他の組合員に限定しているため(第46条第5項)、外部専門家である理事長を代理人とすることはできない。

総会で、外部専門家の意思が強く反映されすぎることを防ぐ観点からは、「議決権行使書」によることを原則とするほか、実例では、外部専門家である理事長には委任できないルールとしているものも見受けられる。

なお、外部専門家である理事長を含めておくことが必要なやむを得ない事情がある場合は、代理人とするよう規約改正しておく必要がある。

3) 一定額以上の支出を伴う契約行為の厳格化

修繕積立金会計からの支出を伴う契約行為は、一般的に、総会決議を経ることが必須とされている。

しかし、外部専門家である理事長等による過剰・不要な契約を未然に防止する観点から、管理費会計からの支出のみを伴う契約行為であっても、

あらかじめ定めた一定金額以上の支出を伴う場合は、理事会や総会の承認の必須とするなど、標準管理規約よりも契約行為の意思決定の手続きを厳格化しておくことも考えられる。

③ 解任を可能としておくための措置

1) 管理規約条文における管理者〔理事長〕名等の固有名詞の排除

管理規約に理事長・管理者に就任する者の固有名詞を明記してしまうと、

解任を行うための管理規約の見直し(組合員・議決権総数の4分の3以上の同意が必要)など、

解任が極めて困難となることから、管理規約に固有名詞は記載しないこととする。

2) 解任に向けた総会の招集要件の緩和

組合側から外部専門家の解任を求める場合には、

組合員・議決権総数の5分の1以上の同意に基づき総会を招集し(区分所有法第34条、標準管理規約第44条)又は監事の臨時総会招集権(標準管理規約第41条)に基づき総会を招集し、

普通決議により管理者を解任、新管理者を選任することが想定される。

管理運営に対する関心の低い組合員が多い、賃貸化率が高い等により非居住の区分所有者が多いなどの事情があるマンションにおいては、

総会を招集しやすくするために、必要に応じて、組合員の総会招集のための要件を、組合員・議決権総数の10分の1以上の同意などにあらかじめ緩和しておくことも考えられる。

3) 区分所有者名簿等へのアクセスの確保

区分所有法上、規約や議事録の保管責任者は管理者となっており、組合員等の利害関係者に閲覧させる義務も規定されている(区分所有法第33条、第42条)。

実際の管理規約でも帳票類等の各種書類の保管業務は、外部専門家である理事長(管理者)の業務とされていることが多いと考えられ(標準管理規約第64条)、

外部専門家の解任を求める総会を招集する場合、区分所有者名簿が必要となる場合は、標準管理規約第64条の閲覧権の行使をすることが考えられる。

④ 利益相反等管理組合の利益を損なう行為への対応

管理組合役員は、マンションの資産価値の保全に努めなければならず、管理組合の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることがあってはならない。

とりわけ、外部の専門家の役員就任を可能とする選択肢を設けたことに伴い、このようなおそれのある取引に対する規制の必要性が高くなっている。

外部管理者と管理組合の利益相反取引に該当するものとしては、以下の取引が挙げられる。

  • 管理者が特別な利害関係を有する業者に、工事・物品等を発注内容に相応しない価格で発注する
  • 発注先からリベートを授受する など
1) 工事等の発注における業者選定等の透明性確保

高額となりがちな修繕工事等の一定金額以上の発注を行う場合には、総会又は理事会の決議を必須とするとともに、

発注先選定に当たっては、公募する・必ず複数者から見積を取得する等の、発注先等のプロセスにおいて透明性を確保する措置を義務付けておくことが有効であると考えられる。

特に、当該取引の相手先を外部専門家が推薦した場合には、候補として浮上した理由を明らかにしておくことにより、取引の相手先の選定プロセスを公平・透明化することが考えられる。

2) 外部専門家と管理組合の利益が相反する取引の制限

利益相反取引については、標準管理規約でも理事会の事前承認を経るルールを設けている。

このほか、あらかじめ、外部専門家に対して、自己の所属や経歴の詳細等の利害関係の有無の判断材料となる情報の申告を求めたり、

利益相反取引に該当し得る取引が行われようとしている場合には、外部専門家からの自己申告を義務付けたりしておくことも有効であると考えられる。

3) 管理組合からの報酬以外のリベート等の収受禁止

不正の防止のためには、

外部専門家が、管理組合からの支払われる正当な報酬以外に、いわゆるリベート・マージン等、管理組合の取引先業者等からの不透明な利益の収受等を行わない旨

を、約束させておくことも有効であると考えられる。

(2) 多額の金銭事故・事件の防止

① 口座の適切な管理

1) 財産の分別管理の徹底

外部専門家が理事長に就任する場合、管理組合の口座名義は理事長である当該外部専門家の名義となるが、

当然、管理組合の財産と、外部専門家自身の固有財産、又は理事長に就任している他の管理組合の財産とは、必ず、分別して管理する必要がある。

2) 通帳・印鑑等の保管体制(派遣元等による銀行印保管、理事長印と銀行印の分離、キャッシュカードの作成禁止等)

一般的に、管理組合の預金口座の印鑑は理事長が保管していることが多いと考えられる。

しかし、外部専門家が理事長に就任する場合は、外部専門家による着服等を防ぐため、以下のような措置をとることが考えられる。

  • 印鑑を施錠の可能な場所(金庫等)に保管して、印鑑の保管と鍵の保管を、理事長と他の役員(区分所有者)で分担する(標準管理規約第 62 条関係コメント)
  • 金融機関届出印を、管理組合印(理事長印)とは別に専用印を作成し、区分所有者が保管する
  • 通帳と印鑑の保管者を分けて、いずれか一方の保管者を区分所有者の中から選任しておく
  • 通帳の管理は管理業者に委託する
  • キャッシュカードの作成を禁止する など
3) 修繕積立金の積立方式の工夫(複数の役員の確認がなければ現金化できない方式等)

修繕積立金については、

現金化のために踏むべき手続が多い等、なるべく現金化が困難な方式を活用して、修繕積立金を運用することが望ましいと考えられる。

②出納業務の不実施

1) 出納業務の対象外化

外部専門家による金銭事故防止のため、

個人である外部専門家が理事長や会計担当理事に就任する場合においては、

出納業務については業務の対象外とし、管理業者への委託を義務付け、金銭事故防止に努めることが望ましいと考えられる。

2) 現金の取扱いの禁止

現場での金銭事故・事件の防止のためには、

管理費・修繕積立金や使用料の徴収や、物品購入・工事発注等において、

出納はすべて口座振替・振込等によるものとし、出納業務に関わる者による現金の取扱いを禁止することが望ましいと考えられる。

③ 適切な財産管理状況の把握

1) 監事等による組合財産状況に関する理事会・総会への定期報告義務

区分所有者である監事(又は外部監査人)による、

定期的(月次、半期、決算期)な会計のチェック及び理事会(理事会が設置されない場合は組合員)への報告が重要。

また、当然ながら、会計資料の作成者による自己監査は、禁止すべき。

2) 通帳原本等の定期的な確認

外部専門家が理事長や会計担当理事である場合、

通帳や金融機関発行の預金残高証明書の原本を、定期的に、監事(又は外部監査人)自らが確認し、

預金口座からの不正な引き出しがない旨や、会計帳簿の原本(見積書、請求書、領収書等の証跡を含む)との整合性を確認することが重要。

 

〔事故・事件により管理組合財産に損害が発生した場合の保護措置(発生後の保護措置)〕

(3) 事故・事件が起きてしまった場合の組合財産の保護措置

① 保険・補償制度の活用

1) 過失による損害(専門職業人賠償責任保険等)

外部専門家が、役員としての職務遂行上の過失により管理組合に経済的な損害を与えた場合への対応として、

役員等に就任する外部専門家に対して、賠償責任保険への加入など補償能力を担保するための措置を義務付けることを原則とすべき。

2) 故意・重過失等による損害(派遣元の補償、資格者団体による保険等)

故意・重過失により損害を与えた場合など、一般の保険制度ではまかなえない場合も考えられる。

このような場合、損害を与えた当該外部専門家が法人である場合や、法人等から派遣された者である場合については、

当該法人に補償を求めることが考えられるので、財産的基礎の充実した法人と契約し、損害の補償について規定しておくことも考えられる。

他方、個人の国家資格者等である外部専門家の場合、

このような賠償が可能な財産的基礎の充実した会社等の組織に所属していないことも多いと考えられる。

このようなケースに対応するため、資格者団体による保険制度の活用や自主的な積立(見舞金)制度などの構築が望まれる。

② 紛争解決手続の活用

1) 外部専門家である管理者(理事長)を被告とする場合の訴訟手続の例示

外部専門家との間で、管理組合の財産毀損等を含むトラブルになった場合、最終的な解決手段は、民事訴訟となるが、

区分所有法上は、基本的に、管理者が管理組合側を代表して原告・被告となることを想定した規定を置いているため、管理組合側と外部専門家である管理者の間で紛争になった場合の訴訟手続に留意する必要がある。

2) 裁判以外の解決手法(資格者団体による懲戒制度等)

紛争内容や対立の程度に応じて、裁判によらない紛争解決手続きを行うことも考えられる。

外部専門家の職務執行状況等についてトラブルが発生した場合、資格者団体等の相談窓口に相談を寄せ、公平・中立な観点から助言を得ることが望ましい。

 

外部専門家を役員に選任すためには、特に管理組合の財産の毀損防止について、管理規約や契約書において十分な措置を取るようガイドラインは示しています。

もちろん、意図的に管理組合の財産を毀損するようなことがあってはならないのですが、十分な注意を払ってもミスが起きることは0%ではないのですから、ガイドラインが示すような取り決めをしておくことは、今後必要になってくるということでしょう。 

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