管理組合の運営に外部専門家を活用する方法(4)

前回に引き続き、外部専門家の活用に関するマンション標準管理規約の平成28年改正についてまとめていきます。
今回は、37条の2~40条です。
☆ 平成28年改正マンション標準管理規約「外部専門家の活用」規定一覧
全般関係コメント③ | 外部専門家の活用に関する総合的な考え方を明記 | |
35条 | 役員 | 外部専門家を役員に選任できることとする場合の定めの新設 |
36条 | 役員の任期 | 外部専門家を役員に採用する場合の役員資格喪失の定めの新設 |
36条の2 | 役員の欠格条項 | 役員の欠格条項の定めの新設 |
37条 | 役員の誠実義務等 | 財産毀損防止の措置・報酬支払時の留意事項のコメント追記 |
37条の2 | 利益相反取引の防止 | 利益相反取引の防止の定めの新設 |
38条 | 理事長の職務 | 理事会への報告の定め・利益相反事項に関する代表権の定めの新設 |
39条 | 副理事長 | (変更なし) |
40条 | 理事 | 理事の監事に対する報告義務の定めの新設 |
41条 | 監事 | 監事の権限強化のための定めの新設 |
別添1 | 外部専門家の活用パターンごとの解説 |
☆ 第37条の2「利益相反取引の防止」
平成28年の標準管理規約改正では、
役員の資格に関し、新たに外部専門家型を設けたことなどを踏まえ、
以下のような、利益相反取引の防止の規定を置きました。
(利益相反取引の防止)第37条の2
役員は、次に掲げる場合には、理事会において、 当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。 一 役員が自己又は第三者のために管理組合と取引をしようとするとき。 ⇒ 直接取引 二 管理組合が役員以外の者との間において管理組合と当該役員との利益が相反する取引をしようとするとき。 ⇒ 間接取引 |
管理組合の役員と管理組合との利益相反取引とは、
役員が管理組合の利益を犠牲にして、
自己又は第三者の利益を図るような取引のことをいいます。
そして、役員が利益相反取引
(一 直接取引による利益相反 二 間接取引による利益相反)を行う場合は、
事前に理事会に対して当該取引について重要な事実を開示し、
その承認を受けなければならないと規定しました。
(利益相反取引でも、理事会の承認を得れば取り引き可能となる。
理事会は承認したことについては、当然のことながら総会への説明責任が発生する。)
利益相反取引になるか否かの判断は、
「役員個人の利益にはなるが、管理組合には不利益にしかならない行為」
に該当するか否かにあります。
例えば、大規模修繕工事を行うときに、
理事長が代表取締役に就任している会社に工事を発注する場合、
その工事費用が他の会社に比べても相応であり、
工事の実績も評価も十分にあるのであれば、
管理組合に損害や不利益を与えるものではなく、利益相反取引とは言えません。
役員と直接関係がある会社に工事させても、
それだけでは利益相反とは言えないということです。
ただし、管理組合に損害や不利益を与えない利益相取引ならば許される
というのは規約上のことで、
理事長の会社に管理組合の工事を任せれば、
たとえ正当ではあっても利益が出るのは間違いありません。
(そもそも利益が出ない事業を企業は行わないでしょう。)
その点で他の組合員から、公正性に欠ける等の疑念をもたれ、
内部紛争に発展するおそれがあるため、
「役員関係者の会社を大規模修繕工事に施工させない」
と最初から決めている管理組合も多いようです。
次に、第37条の2関係コメントにも目を通しておきましょう。
第37条の2関係コメント
役員は、マンションの資産価値の保全に努めなければならず、 管理組合の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることがあってはならない。 とりわけ、外部の専門家の役員就任を可能とする選択肢を設けたことに伴い、 このようなおそれのある取引に対する規制の必要性が高くなっている。 そこで、役員が、利益相反取引(直接取引又は間接取引)を行おうとする場合には、 理事会で当該取引につき重要な事実を開示し、承認を受けなければならない ことを定めるものである。(以下省略) |
☆ 第38条 理事長の職務
理事長の役割を規定する38条に、
理事会への報告の定め(4項)と利益相反事項に関する代表権の定め(6項)
が追加(新設)されました。
(理事長) 第38条
4 理事長は、○か月に1回以上、職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。 6 管理組合と理事長との利益が相反する事項については、理事長は、代表権を有しない。 この場合においては、監事又は理事長以外の理事が管理組合を代表する。 |
4項は、理事長が、その職務の執行状況を理事会に定期的に
(例えば「3か月に1回以上」等)報告すべき旨を定めたものです。
(第38条関係コメント②)
6項は、37条の2の「利益相反取引の防止」に関連して、
管理組合と理事長との利益が相反する事項については、
監事または当該理事長以外の理事が管理組合を代表する旨を定めています。
☆ 第40条 理事
理事の役割を規定する40条に、
監事に対する報告義務の定め(2項)を追加(新設)しました。
(理事)第40条
2 理事は、管理組合に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、 直ちに、当該事実を監事に報告しなければならない。 |
理事が、
管理組合に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見した場合、
その事実を監事に報告する義務を課すことで、
監事による監査の実施を容易にするために規定したものです。
(第40条関係コメント)
平成28年改正では、監事の権限が強化されその重要性が高まっていますが、
それを担保するための規定の一つになります。
管理組合の役職決めの席には、私も何度も立ち会ってきたのですが、
一番皆さんがやりたくない役職は、やはり「理事長」でした。
それだけ責任がある役職、ということでしょうが、
「監事」はというと、
どちらかというと年に1回だけ仕事(会計書類の監査)をすればいい
というような感じで、人気がある、と言ったら変ですが、
それほど重要な役職ではないと役員さんたちに思われている
印象がありました。(あくまで管理組合の現場での印象です。)
実際も、監事さんから、
理事会の業務執行や会計にクレームがついたケースは皆無でした。
しかし、これからは「監事」の重要性が増し、
ある意味、理事長よりも重要な役職になると言ってもいいかもしれません。
将来、標準管理規約のとおりに管理規約を改正した場合は、
役職決めの席で一番不人気な 役職= 「監事」 になっているかもしれませんね。
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